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■ アスラン脱走 〜Epilogue〜
…………目を開けると、そこにはキラがいた。
澄んだ紫と、ブラウンの色彩。視界に映る幼なじみは、穏やかに微笑している。
夢の続きだろうかと何度か瞬きをしてみたが、やはりキラだった。だが、おかしい。彼は死んだはずなのだ―― “インパルス” に機体ごと撃破されて。
アスランは半信半疑のまま、それが幻覚かどうか確かめるべく起き上がって手を伸ばそうとした。
「……!?」
とたん全身が痺れるような激痛に苛まれた。ベッドに転がった衝撃に、また関節がずきずき疼く。
「ああ――だめだよ、動かないで」
キラは心配そうな、少し困ったような顔をして、すぐ傍の椅子に掛けていた。
「お……まえ……」
死んだはずじゃ、と訊こうとしても声が出せなかった。呼吸するだけで喉や胸部に鈍痛が奔る。ああ、でもこれだけ痛いのだから、幻ではないのかもしれない。
「だいじょうぶだよ、アスラン」
表情から、疑問を読み取ってくれたんだろうか。
フリーダムは大破したが、キラたちは無事に逃げ延びていたこと。アスランは、キサカに救出されてアークエンジェルに連れてこられたこと。メイリンも、軽傷は負ったが無事であること。カガリが泣いてしまって大変だったと、彼はゆっくり説明してくれた。
それが現実なのだ、という認識とともに――恐怖と安堵と懐かしさ、その他あれこれの激情がどっと溢れてきて、止めようもなく泣けてきた。
伝えたい気持ちがあるのに、上手くまとまらない。声はひどく掠れていて、自分でも言葉になっているのか判らない。
「アスラン、もういい。今はしゃべらないで……いいから、少し眠って」
怪我に障る、とキラは諭した。僕たちは、またいつでも話せるんだから。
うながされるままに目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきて、アスランは、今度はおかしな夢を見ることもなく眠りについた。
「…………」
友が寝息を立て始めたのを見届けると、キラは椅子から立ち上がった。すたすたと医務室を出て行こうとする彼に、ネオ・ロアノークが声をかける。
「……なんだよ。そいつ、ザフトから抜けてきたんだろ? 使える情報つかんでるかもしれないぜ、聞いとかなくていいのか」
「はい。なんかもごもご言ってるけど、まったく聞き取れないんで」
あっさり肯く少年の微笑は、とても素敵に黒く見えた。
「そりゃあ、まあ……な」
「それに話を聞いても、たいした情報は得られないと思いますよ。証拠を押さえるだとか、そういう器用な発想ができるタイプじゃありませんから、彼は」
(議長の裏をかくには、やっぱり僕とラクスで頑張らないとね……)
以前と変わらず優しく接しているように見せかけ、実は大切な姉を泣かされてご立腹だったキラ少年が、心の中で考えていた、対アスラン用に厳選された罵詈雑言。
“インフィニットジャスティス” に搭乗しての活躍後、なんとかかんとか友情その他を回復していったアスランが、それらを直にぶつけられることがなかったのは、不幸中の幸いであったかもしれない。
そんなこんなで、脱走シリーズ完結です。半端なコメディ話にお付き合いくださった皆さま、ありがとうございました♪
余談ですが本編の、あの救出されてから目覚めてキラと話すシーン。うにゃうにゃ言ってるけど、ちっとも聞き取れなかったのは私だけ……? (汗)