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■ INTERLUDE


 ――1:30。スカンジナビア、TV局。

「室長! 通信文、コダックからです。元地球連合の部隊長や、エクステンデッド研究員にとったインタビューと……」
 深夜にも関わらずTEL・FAX音が鳴りわたる編成部デスクで、女性スタッフが声を張り上げる。
「現場の中継映像も届いてるはずよ、確認して!」
「はいっ」
「なんだなんだ今どこにいるんだ、あの爺さんと嬢ちゃんは?」
「インド洋からガルナハン行ってディオキア経由で、オーブに寄って、それから中央アジアをうろうろしてるみたいです。つくづくフリーって身軽ですよねえ」
「とにかく裏とって、朝イチのニュースに間に合わせないと!」
「しかし、すっかり世界の指導者って貫禄だよな。プラントの議長殿は――このままだと形勢逆転どころか、大西洋連邦が孤立しかねないぜ」
「連合の圧力を撥ね退けるには絶好の機会、か。さあて……リンデマン外相は、どう出るやら」


 ――2:00。オーブ本土、アーガイル家。

「! おかえり、親父」
「なんだ、まだ起きていたのか……明日も大学はあるんだろう? 視力も落ちるし寝坊するぞ、夜はなるべく早めに寝なさい」
「講義は三限からだし、平気だって」
 駐車場の物音を聞きとめ、ホッとしつつ出迎えに立った玄関先。
「それに母さんも、さっきまで心配して起きてた。俺が代わりに待ってるって言ったら、ようやく部屋に戻ったけど――まだ眠れてないんじゃないかな」
 息子の言葉に 「そうか」 と頷いた、経済文化局長の横顔は浮かない。
「やっぱり政府は、対応に追われてるのか? 報道された “グロード” って首長家出身の……だろ」
「不幸中の幸い、といって良いものか――公表された幹部リストの中に、オーブ在住者はいなかったからな。ニュースで流れたような暴動は起きないだろう」
「じゃあ、このまま大きな騒ぎにはならない?」
「国防の基盤を担う軍需産業界、それらを裏で牛耳る “ロゴス” が世論を蔑ろに暴走しすぎたといって、彼らに関わっていた国や企業をことごとく一掃する、なんて真似は出来んさ。それではプラントを含めた世界中を敵に回すも同じだ」
 二階へ上がりながら、静かに。
「ロード・ジブリールらを捕らえて裁き、地球連合の武力を削いで、停戦――という運びに落ち着いてくれればと思っているよ」
 息子の肩に手を置いて、微苦笑を浮かべた。
「どのみちしばらくは、まともに家へ帰れそうにないからな……母さんを頼むぞ、サイ」


 ――2:30。ベルリン近郊、荒地。

「なあ、おまえらラジオ聴いた? ロゴスの幹部連中、何人か私刑にされたってな」
「けっ。ごーつくばりのジジイどもが、自業自得だろ」
「でも……形勢不利だからって、また、民間人まで巻き込むようなイカレた作戦に出なきゃいいんだけどな」
 ザフト駐屯部隊の生き残りが、テントの傍、はぜる焚き火を囲んでいた。
「おいおい、シャレになんねーよ。勘弁してくれよ」
「いや、それを防ぐために俺たちザフトがいるんだろ?」
「あー。まあ、連合軍の侵攻を、食い止めてくれたのは “インパルス” だがな」
「分かってるよそれくらい、言ってみたかっただけ!! どうせ俺は後方支援がせいぜいの万年緑だよ、ちくしょうめ」
「悪かったよ、怒るなって」
「そうそう、心がまえは大切に――しっかし実際、すぐそこに “ミネルバ” がいると思うと安心だよなぁ!」
 まったくだと盛り上がる仲間たちを横目に、立ち上がった兵の背中に 「んっ? どうした」 と声がかかる。
「ははっ、炊き出しのスープが美味かったもんだから。つい飲みすぎちゃったみたいでさ」
「簡易便所なら向こうだぞ」
「懐中電灯貸そうか? 瓦礫だらけだからな、こけるなよ。マヌケに使ってやる余分の包帯は無いぞー」

 頭を掻きつつ曖昧に首を振って、喧騒から離れ。とぼとぼ歩きだした極寒の地。

「……それで、なんなんだよ妙なことって?」
「ああ。記憶違いかもしれねーから、まだ他の奴らには言わないで欲しいんだけど――保護した市民の一人がさ」
 しんと冷えた空気は、囁きをよく伝える。
 憚るように物陰に身を潜めた人影を見つけた、青年はハッと立ち竦み、おそるおそる彼らに話しかけた。
「なあ、その話って……」


 ――3:00。空母 “ボナパルト” 、メンテナンスルーム。

「どいつもこいつも簡単に煽られおって――なんの為に人体強化を研究し始めたか、それすら忘れたか? 単細胞どもが!」
 苦々しげに毒づいた、将校が睨み据えるは。
「そっ、そうですね」
 びくびくと同意する研究員たち、さらには電子音をたて明滅する “ゆりかご” の中、昏々と眠り続ける少年が一人。
「メンテナンス終了まで、あと何時間だ?」
「何時間と申されましても……ロアノーク大佐に関する記憶まで消すには、そうとう手こずるでしょうし。普段のストレス除去とは訳が違いますから」
「ぐだぐだ抜かしとる暇があるなら、手と頭を動かせ! 次に、こいつが目覚めたとき、またベルリンに引き返せと暴れるようなら承知せんぞ」
 首をすくめ縮こまった男女は、そろってコンピュータ操作に戻った。
「無様に敗退し続けたうえ、エクステンデッドの性能まで劣化させていたとは! 役立たずの “鷹” めが――」
 背を向けた将校は、去り際、脅すように言い捨てた。
「ラボのほとんどが機能停止した、今となっては希少な完成品のパイロットだ……くだらんミスで壊すなよ」

 
 ――3:30。とある病棟の診察室。

「こーんばんは、ちょっと失礼」
「おや、宣伝広告活動は終わったのかい? “メグ・アスター” さん……いや、今は “シエル・スタローン” だっけ」
 あくび混じりに入ってきた女を眺めやり、ウィスナーは、しばしデータ整理の手を休める。
「いったい君は、いくつ偽名を使ってるんだ? リノルタ」
「きっちり切り替えて活用できる数だけ、ね。そんなことより、子供たちの体調はどう?」
「全体的には良好だよ。ラボの実態が大々的に報道されたからには、また忙しくなるだろうが――あちこちから研究スタッフごと抜けてきてくれたのは、嬉しい誤算だったな」
 人員が確保できるという利点はもちろん、生活環境の変化に起因するエクステンデッドの混乱も避けられた。
「しかし “ターミナル” ってのは、年がら年中こんなことをしてるのか? 酔狂な」
「まさか。普段は地味に取材活動してるだけ……帰る国も家も持たない奴らがほとんどの、寄せ集め集団よ」
 問われた当人は悪びれもせず笑い、
「ただ、なにか変だと嗅ぎつけられる土台が揃ってて。のんきに待ってても助けなんか来ない、って考えは共有してる。そんでもって」
 ああ疲れたとハンドバッグを放りだして、簡易ベッドに寝転がる。
「政府や軍が組織ぐるみで隠蔽する類のことは、ロクでもないって相場が決まってるから。とことん食らいついてホントのとこを暴いてやろうと思ってるわけ」
 そういうのを酔狂って言うんじゃないか、と内心呆れたことは億尾にも出さず。
「とにかく――いちお、NPO団体やボランティアグループの活動は軌道に乗ったし。ニュース記事も、知り合いのジャーナリスト連中が書いてくれるから……あたし、明日っからプラントに行ってくるわ。あと宜しくね」
 ウィスナーは 「了解、任されましょう」 と応じた。


 ――4:00。セプテンベル、郊外。

「すみません、すっかり遅くなって」
「いいえ。守備隊が、あれだけ隙なく配置されていては迂回せざるを得なかったでしょう……送ってくれて、ありがとう」
 着陸した小型艇を背に、一組の男女が佇んでいる。
「宣戦布告にも等しい “緊急メッセージ” の直後です。ザフトは、とうぶん厳重警戒を続けそうですね」
「しかし議長は、なにを考えているんだか――今までに起こった戦争すべてがロゴスの仕業、なんて理由で片付けられる訳もないだろうに」
 単純に捉えれば、戦争の長期化を避けるため勝負に出たのだろうが。デスティニープラン導入の布石と考えられなくもない。
 少し思案したのち、カナーバは提案してみる。
「あなたがたには独自のネットワークがあるのでしょう? “ファクトリー” が人手を持て余しているなら、ギルバート・デュランダル個人の経歴を辿ってみては?」
 すると赤毛の青年は、面食らったように眉根を寄せた。
「経歴? 議長に就任する前のことを、ですか」
「ええ。付け入る隙が無いのなら……過去を探ってみるのも、ひとつの手段と思いますよ」


 ――4:30。アプリリウス市街、ビジネスホテル。

「嫌な予感ほど良く当たる、か――」
 眠れぬ夜を過ごす男がひとりTVニュースを眺めていると、こんこんと部屋の扉がノックされた。
「まだ起きているか、タッド」
「なんだ? 夜這いはいつでも大歓迎と言いたいところだが……残念ながら今の私は、そんな気分ではないんだよ」
「よっぽど、そこのベランダから簀巻きに吊るされたいらしいな」
 招き入れた銀髪美女に、底冷えするような眼つきで睨まれた、タッドは諸手を上げて降参する。
「嘘です冗談ですごめんなさい」
 ふん、とそっぽを向いたエザリアは、つかつか歩いていって、
「現役で軍に属しているザラ派が、気になる報告を寄こした。ここ数週間ザフト基地内で、資材の紛失が相次いでいる――搬入記録の類も改竄されていたため、まだ表沙汰にはなっていないが」
 ソファへ腰を下ろすと、おもむろに切り出した。
「いくつか倉庫に監視カメラを仕掛けたところ、確認された横領犯の顔ぶれは、そろって穏健派と思われるザフト兵だったそうだ。映像記録だけでは証拠として弱い、明日にでも見張りをたて現行犯で取り押さえるつもりだと」
 ふむ、とタッドは続きをうながす。
「そいつらがデュランダルを支持するものか、スパイの類かは判らないが――どちらにしろ、内部告発をためらう理由はない。だが、クライン派の人間だった場合」
 そこでいったん言葉を切り、エザリアは辛辣に断じた。
「私がデュランダルの立場で、歌姫暗殺に関与していたなら――例の “アッシュ” 盗難も、捕縛された犯人グループの仕業として摘発するだろう。すべては評議会を追い落とし、プラントの政権を掌握するための。ラクス・クラインによる狂言、自作自演の茶番劇だったとな」
「……それは恐ろしい濡れ衣だなぁ」
「ふざけた英雄譚が罷り通っているところ悪いが。ザラ派の人間は、二年前の出来事についても同じように解釈しているぞ」
「君もかね?」
「どうだろうな。クライン派が疎ましいのは事実だが、だからといってデュランダルに良いように踊らされては癪に障る」
 応じる声音は、不機嫌そのもので。
「横領犯どもは “泳がされている” のか、違うのか。貴様は、どう見る?」

×××××


 ――5:00。アークエンジェル、ブリッジ。

「戻りましょう、マリューさん」
 シフト交代の時間。双子の姉を伴い現れた、キラは言った。
「……オーブへ」
「心配するのは無理もないけど、入国は出来ないと思うわよ? 無理に着陸しようとしたら、またオーブ艦隊に迎撃されるかも」
 クレタとダーダネルスを想起した、ミリアリアの懸念に、
「それは分かってる! けど、なにか起きたときにユーラシアからじゃ、遠すぎる――」
 思い詰めた様子のカガリは、唇を噛んで首を振る。
「……遠すぎたら、手が届かなかったら、守れたはずのものさえ守れない」
「それに、このままベルリンの近くに留まったって、僕らに出来ることは無いでしょう?」
「そりゃあな」
「待機するなら、どこの海底にいたって同じか」
 ノイマンとチャンドラが顔を見合わせ、艦長席のマリューも 「そうね、分かったわ」と頷いた。
「実権がセイラン親子にあるとはいえ、これで停戦になったら、代表首長が不在のままだと外交上の問題も出てくわよね……とにかく、オーブ近海まで引き返しましょう」



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群像劇。ひとつの出来事が繋がって変化して、世界のどこかに影響を与えているわけですが。
この書き方、楽ですわー。