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■ ザフトの為に column


「グラスゴー隊所属モビルスーツ全機、回収完了を確認しました!」
「よし、艦を出せ。ひとまずプラントへ引き返す」
 イザークが指示を飛ばすと、戦艦ボルテールのブリッジにはざわめきが広がった。
「テロリストどもを追撃しないんですか?」
「ああ。敵グループの規模も定かでない以上、深追いは危険だ」
「? 標的は “エターナル” だけでしょう?」
「いや……偵察型ジンのカメラに、連中が潜伏していた小惑星の全貌が映っていただろう」
 白服の腕を組んだまま、オペレーターの一員に向け顎をしゃくって促し。
「さっき跡地を調べた奴らが撮ってきた映像と、並べて見せろ」
「はい」
 モニターを二分割して表示された、空間を。
「船体を覆っていた岩塊が飛び散ったぶんを差し引いても、あきらかに不自然だ。小惑星ひとつぶん宙域から消え失せている」
 睨み付けるイザークに、ディアッカは横から相槌を打った。
「そこには、よっぽどザフトに見つかっちゃマズイなにかが隠してあって―― “エターナル” が囮になってる隙に、まんまと逃げたってことだろうねえ」
「そんな、どうやって!」
「さあな。残ってた作業用MSあたりが、ワイヤーにでも繋いで引っぱったんじゃねえ?」
「どのみち僚艦を曳航していては、勝てる戦いにも勝てん。相手は、それすら計算づくで、わざわざ乗員やパイロットを殺さず置き去ったのかもしれんがな」
「…………」
 顔を見合わせ不安げに、艦窓の外を眺めやるブリッジクルーたち。
「シュライバー国防委員長からも先刻、まずはグラスゴー隊のクルーを本国へ送り届け、配備される予定だった新型機を受領するようにと命令があった―― “ルソー” にも打電しろ、発進する!」


 ようやく動きだしたボルテールの通路を、突っ切って進む途中。

「ば、バケモノ、化け物が……」
「分かりましたから! だいじょうぶ、あなた方は救出されたんですから、ね? 落ち着いて」
「ひ、ヒヒッ、ひっ」
「おい、どうしたんだよ? ここにはちゃんと空気があるんだぞ! ほら、深呼吸してみろって」
「先生、こっちもお願いします! 早く!!」
 様子を見に立ち寄った医務室は、計五隻から集まって慌しく出入りする医師とナース――さらには喉を押さえ頭を抱えてのたうつ兵士たちで、収拾がつかぬ状態に陥っていた。

 哨戒任務に出ていたグラスゴー隊より、軍本部にエマージェンシーが届いたのは数日前のこと。
 ジュール隊が駆けつけてみれば、ナスカ級三隻がスラスター大破・走行不能の有り様で漂流していた。
 さらに被弾半壊して自力では帰投できず、母艦に収容してもらうことも叶わなかった “ザク” や “グフ” のパイロットたちは――個人差はあれど、酸素欠乏・脱水による眩暈や嘔吐、痙攣といった各症状に苛まれ。昏睡したまま意識が戻らぬ患者や、身体より精神に異常を来してしまった者も少なくない。
 現時点で死者は出ていない、とは言えそれを幸いと喜べるかどうか。
 たとえ命は助かっても前線復帰はおろか、日常生活を送ることさえ危ぶまれる容態だった。


「戦後のどさくさで行方不明に……なっていた…… “エターナル” を、発見」

 豊かな顎鬚を蓄えた、50歳前後と思しき男は、士官室のソファにぐったりと凭れていた。
「モビルスーツ隊が仕掛けると、敵艦から “ガイア” が迎撃に出てきて」
「 “ガイア” ぁ?」
「あの機体はロドニア付近で、ミネルバが回収したはずでは」
 眉をしかめたイザークの疑問には、
「ええ。ですが基地で降ろされたあと、輸送経路の途中で紛失したとも聞きました――犯人は不明、未だ捕まっていませんが」
 隣からシホが答え、言い添えた。
「同時期に、あちこちで物資の紛失が相次いでいたようです」
 グラスゴーは彼女に視線をやり、肯いて。
「ようやく奴らを追いつめたところに “ストライク” が飛んできて……それを撃破したと思ったら、今度は母艦から “フリーダム” …… “インパルス” が倒したはずの敵機が、現れ……たった2分で、25機のザクとグフが全滅……」
 気力を振り絞るように、面会に訪れたディアッカたちと向き合い、ぽつりぽつり詳しい経緯を話し終えると。
「…………なんだったんだ、あれは……ゴーストか」
 虚ろな目をして、呆けた呟きを漏らす。
「ザフトからの強奪機、及び盗難艦です。それ以外の何者でもない」
 親子ほどに歳の離れた同僚へ、イザークは、きっぱりした口調で応じてみせた。
「奪還が不可能な場合は、今度こそ破壊します――我々が」
「無理だ」
 ところがグラスゴーは自嘲を浮かべ、首を横に振る。
「あんなモノと普通の人間が戦って勝てるわけが無い。それに、ジュール隊長? 君たちは三隻同盟の……」
「敵です。プラントを脅かすものなら、誰であろうと」
 間髪入れず言い放たれた台詞に、ブルーバイオレットの瞳を瞠るシホ。
「若輩ながら私も、ヤキン・ドゥーエを経てザフトに属するもの。己の力量くらいは心得ています――アレに真っ向勝負を挑んで、敵うとは思いませんが」
 ああ、そこらへんの自覚はあるんだなと、ディアッカが見守る中。
「再発見次第、コントロールを潰す策をとります」
 イザークは視線を逸らさず。グラスゴーの表情から、疑わしげな色はやがて消え。
「……頼む」
 率いる艦隊を全滅させられた男は、疲れ切った様子で項垂れた。


 それから自分の部屋へ戻ったイザークは、おもむろに。

「スゥ〜トォラ〜イークゥウゥゥウウウ……ッ!!」

 隅に積んであった古新聞の束。
 ゆうに厚み30cmを越える、それをベリベリバリバリッとかなり物騒な音をたて一気に引き裂いた。
 続けて細切れになるまで千切っては投げ千切っては投げ、地団太を踏むごとく踏み潰し蹴り飛ばし。
「いや、たぶん。やったのほとんど “フリーダム” ――」
「うるさいッ!!」
 そろそろ落ち着いたかと、壁際に避難したままディアッカが突っ込めば、ぐりんと振り向きざまに怒鳴り散らす。
「連中は必ず、俺たちの手で捕まえる! いいな?」
「……え、マジで?」
「当たり前だ!」
 さっきまではグラスゴーに配慮して、癇癪を抑えていたらしい。
「確かに “エターナル” には、前大戦を終結に導いたラクス・クラインの――歌姫の艦だというイメージが焼きついているだろうが。だからといって強奪した代物を、そのまま私物化して許されるか! “フリーダム” のみならず、セカンドシリーズ “ガイア” まで――おまけに “ストライク” だと!?」
「機体強奪なら、俺たちもやったけど」
「それは中立を掲げるオーブが連合に加担して、モビルスーツ開発などやっていたからだろうが! 同じ状況か? 俺たちザフトは二年前から今の今まで、元三隻同盟の奴らと戦争中だったわけか! ええ!?」
「あー……向こうは、これっぽっちもケンカ売る気じゃないんだろうけどねぇ」
「フン、そうだろうな」
 チッと舌打ちしたイザークは、碧眼を吊り上げ。
「だが、こうまでザフトを虚仮にしておいて敵対するつもりは無いというなら、その手前勝手な思考こそが他人を馬鹿にしている! 盗人猛々しいわ!」

 まったくもって抗弁の余地が無い。
 たとえば、外観がありふれた民間船だったなら、間違っても出会い頭に攻撃されるような目には遭わなかったろうが。
 対 “ロゴス” の戦闘が大詰め、逃げたジブリールを捜索中で神経を尖らせている、プラント近域に不明機でうろつき――しかも “エターナル” に加え強奪機 “ガイア” を所持していたのでは。
『私たちはドロボーですよ、ここにいますよ捕まえてごらんなさぁ〜い♪』 と宣言しているようなものだ。
 もう完全に、ザフトというか世の中を舐めくさっている。

「あんなモノをのさばらせては、俺の傷が疼くだろうが……ッ!!」
「……そっすか」
 傷ならもう無えじゃん、と思ったが。
 触らぬ神に祟りナシ。ディアッカは、おとなしく引き下がった。
 どうせタダでは済まぬ事態なら、他人に任せるよりは、ラクス・クライン暗殺未遂犯を突き止めたうえで、エターナル・アークエンジェル陣営に任意同行を求めた方が良さそうだ。

 そこへブリッジから通信が入り。
「どうした?」
 一呼吸おいたイザークが応じると、オペレーターはどこか困惑した様子で告げた。

〔カーペンタリア情報部から、連絡が――ロード・ジブリールの行方が判りました!〕




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グラスゴー隊の皆さん。おそらく極秘任務で出ていたと思われますが、救助されたんですかね……助けが来なかったら、宇宙空間で餓死ですよ?(汗)